“欲しいものはありますか”  『初々しい二人へ10のお題』より

〜年の差ルイヒル篇

 


長かったなぁという印象が強かった今年の梅雨だったけれど、
東海以西、四国から中国、近畿地方の梅雨明けは、
昨年より10日も早かったんだとか。

 「凄い降り方をした日が多かったのと、
  陽が照った日は、
  もう夏か、もう明けたかと思わせるような天気だったろ?」
 「うん。」

こっくり頷いた小さなお友達へ、立てた人差し指を振って見せ、

 「なのに、
  ま〜だだよって感じで
  また何日も続けて降ったりしたからだろうよ。」
 「そっかぁ。」

相変わらずに博識なお友達の見解へ。
黒いところが滲み出して来そうな潤んだ眸々を
大きく見開いての瞬かせ、
そうして素直に納得したかと思や、

 「そーゆーのって“思わせぶりこ”って ゆうんだよね。」
 「………☆」

なんてってと うふふと微笑う、瀬那くんだったりし。
子悪魔さんと呼ばれてもはやン年目の、
先輩格にあたろう蛭魔くんさえ、
おややと 目を見張るよな
一丁前な物言いをするようになったもんだから。

 『一体どこで覚えて来たのやらだよな。』
 『お前の口利き見て覚えたんじゃないのか?』

あああ、それを言っちゃあ…と
周囲が止めるのが一呼吸ほど遅かったがため、

 『…っ!!』
 『判った判った、茶化した俺が悪うございました。』

どっから出したか、
布地の裁断用という型の、よく切れそうな大バサミを両手で構え、
2つの取っ手のそれぞれをわざわざ各々の手で持つと、
しゃきんっと良い音させての切る動作つき、
ていっと突き出して来た小さなお手々から避けるため。
背後へのけ反ったそのまま、ブリッジの体勢になって髪を守った総長さんも、
大した反射じゃああったのだけれど。
それは…後日談なので 今は置いとくとして。
小学校のお教室、
ポーチへ出られる大窓の際へまでお椅子を引っ張って来て、
何とかそよぎ込む涼風に当たりつつ、
お迎えの来るのを待ってるところは、
ともすればここのところの恒例というお二人さんだが、

 「高校生はもうお休みだもんねぇ。」
 「そうだな。」

七月に入るとすぐにも定期考査の内の1つ、
期末考査というテストがあるそうで。
しかもそれが終わったら先生方が採点にかかるため、
終業式までをお休みとする学校がほとんど…と来て。

 「でもまあ、ルイにしても進にしても、
  アメフトの都大会や関東大会があるもんな。」

彼らの知り合いの高校生さんたちに限っては、
そこから一気に夏休みモードに入るのじゃあなく。
むしろそこからが正念場という集大成、
新学期が始まってすぐ一回戦が催され、
毎週末に試合のあった春大会もいよいよ大詰め。
例年どおりに運べば、
七月中という夏休み直前に、
関東大会の決勝戦が行われるスケジュールになっており。
優勝候補常連の王城ホワイトナイツはともかく、
賊学カメレオンズも何とかギリギリで
関東大会まで進めている今年度なもんだから、
子悪魔坊やの方は、
射して来た薄日に燦めく金の髪も溌剌と、
ワックワクというお顔を隠さずにいるものの、

 「でもな……。」

おやや、セナくんの方は、少々思うところでもあるものか、
愛らしい口許をちょみっと曲げておいでで。
細っこい首を前へと倒すと、
はふうと かあいらしい溜息までつくものだから。
おいおいどうしたと細い眉を上げた妖一くんだったのへ、

 「あのねあのね、
  進さん、じゅーどーの選手になって
  こーこーそーたいに出られてたかもなのだって。」

 「???
  ……ああ、高校総体な。
  って、柔道の選手で、だと?」

舌っ足らずな幼い口調で紡がれたお言葉を まずは翻訳し、
理解したそのまま、でもでも おい待てと。
付帯条件があっと言う間に追いついて来て。

 「進は二股かけてなんかなかったろうが。」
 「うんっvv セナひとすじだってvv」
 「〜〜〜〜〜っ。」

無邪気な合いの手が出来るようになったのはなかなか偉いが、
そういうのは相手を選んでやんなさい、セナくんも。(苦笑)
判っててそう来るかとの素早い反応、
殴ってやろうかと、
わざとらしくも拳に息を吐きかける真似をして見せたところ、

 「だって桜庭さんがゆってたんだもん。
  進さん、時々じゅーどーの練習にって引っ張り出されてるって。」
 「へぇえ?」

王城高校は何もアメフト部ばかりが有名なわけじゃなく、
文武両道という校風に相応しく、他の運動部も良い成績を出しており。
サッカーやラグビーに、柔道部や剣道部などなどは、
それぞれの県大会や全国大会にかならず顔を出す強豪だというし、

 「進さんてば、あいきどーの段も持ってるでしょお?
  それで、じゅーどーの組み手ってゆー練習に、
  時々呼ばれるんだって。」

合気道と柔道は微妙に異なる武道じゃああるが、
あれこれと指導や手ほどきをする訳じゃなし。
手ごわい対戦相手という設定の練習台になってくれたら、
これほど実になる存在はないということらしく。

 「そいでね? 今年はね?」

そっちの情報も聞いていたものか、
いやに嬉しそうに“くふふvv”と微笑っておいでのセナくんだが、
それもそのはず、

 「その じゅーどー部が夏のインタハイにも出るんだって。」
 「へぇえ〜。」

そりゃあ大したもんじゃんかと、
お父上のチョイスらしい
ミスドのドーナツキャラクターがプリントされてる下敷きを
ウチワ代わりにぺこぺこ振りつつ応じた妖一くんへ、

 「でしょ、でしょお〜〜?」

途端に、凄いでしょ偉いでしょと、
妙に“意を得たり”という反応になったセナくんで。
何にそうまで興奮するのか、
ちょおっと理解反射が追いつけなくてのこと、
おおお…っと 大仰に身を引いての、
のけ反る真似っこをした妖一くんだったものの、

 「だってのに、進さんたらお断りしたのだって。」
 「参加枠が空いてるぞ〜ってお誘いを、か?」

そりゃまた、奴らしいこったなと感じた妖一くんとは
微妙に感慨が違ったらしく。
小さなセナくん、う〜むむと口許を少々尖らせてしまい、

 「セナチビとしては、参加してほしかったとか?」
 「………だってさ。」

インタハイに出たってゆうの、
けっこ自慢出来ることなんでしょお?だなんて。
自分でも何かしら…いけないことよと思いはするか、
ぽしょぽしょって、小さなお声で白状した坊や。

 「そんな言いよう、進はあんまり喜ばねぇぞ。」
 「……………うん。」

桜庭さんからこれこれどうどうってお話聞いて、
そん時は“え〜っ?”て思ったけど、でもすぐに、

 「進さんがどんだけ一所懸命か知ってるセナが、
  そんな浮ついたこと言ってちゃいけないよねぇ。///////」

そうと気がつき、しおしおと…小さな肩をなおすぼめ、
ふみみぃと反省のお顔になってしまう素直さよ。
そんなお友達の素直さへ、
今度こそ うんうんと大きく頷いてやりつつ、

 「大方、三宅のヤローが偉そうに、
  従兄弟が出ることになったって威張ってたの聞いたから、なんだろけどな。」
 「………うぅ。」

おお、図星だったようですね。
ますますと小さな肩がすぼまったけれど、
下敷きが出すぺこぺこという音で弾みをつけつつ、
子悪魔様が続けた一言というのが、

 「言っとくがな。
  奴の従兄弟はあくまで“マネージャー”として着いてくだけらしいぞ?」

 「え?」

サッカー部の名門学校らしいんだけども、
マネージャーも山のようにいるんだと、と。
くつくつと笑ってから、

 「真夏のインタハイに、しかも雑用でついてくなんて御免だって、
  皆して嫌がる中、
  逆くじ引きひいて不幸にも当たっちまったってのが真相らしいぜ?」

 「…はややぁ。」

インターハイって言えば箔が付くって思ったらしいが、
何でもかんでも偉いとは限んねぇ。
そりゃあ縁の下の力持ちも要りようじゃあるけどな、

 「そういう奴ぁ、ひけらかしたりはしねぇんだよ。
  例えば、俺とかお前みたいにさ。」

 「………セナも?」

え?と。
今度こそ素直なお顔で きょとりとした坊やへ、
にしし…と力強く笑って見せてから、

 「お前がいねぇと立ち行かない奴がいるくらいだ、
  単なるマスコット以上の貢献度なんだぜ?」

クリスマスボウルの方が、
インタハイよりずっと重いんだ、覚えとけと。
むんと胸を張った子悪魔様、
………だったけれど。

 『どうせなら、
  そのクリスマスボウルの会場で言い放ってみてぇよなぁ。』

まだ春なんだから見放しちゃあいないけど、
確率を言ったらセナの方が、
クリスマスボウルには断然近いもんなと。
何がどうとは言わぬまま、
ジト目で誰かさんを見据えた妖一くんだったのは明らかで。


  まま、それはそれだぁね。


 「……そっか、
  インタハイより クィスマスボールの方がvv」

そっちが偉いと言われたようで、
すぐ素直に納得しちゃった かあいい子。
この場に進がいたならば、
明日の決勝戦、ぶっちぎりで駆け回って、
記録的トライ決めまくりかねんなと。
苦笑が止まらなかった妖一くんだったそうで。


  眩しくって暑い夏はすぐそこですよvv





  〜Fine〜 11.07.08.


  *高校生Ver.でお送りしたくて、お題ものになりました。
   アメフトを高校総体の種目にしようと意気盛んな蛭魔くんも、
   ありなんじゃないかと思う今日このごろ。
   あのアメリカ縦断大作戦といい、暑いのには強そうですものね。
   そうして、相変わらずに無邪気で、でも、
   大事なことは見落とさない、そんなセナくんですんで、
   進さんはよほどに頑張らないと、
   またまた健気な“願かけ”させることになりかねないぞ?
   (『
Miracle Smile』 参照)


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